
今日ご紹介するのはこちらの作品です。

この作品は、私が娘を出産して約五ヶ月が経過した頃に描いたものです。先に念押しさせていただきますが、このサイトは育児に関する発信のためのものではありません。でも一言だけ言わせてください。毎日育児に奮闘していらっしゃる皆様、本当に本当に、お疲れ様です!
●子供のお世話がこんなに大変だなんて、聞いてない!
自分が一人の親になるまで、私は育児の現場を全く知りませんでした・・・子供のお世話がこんなに大変だなんて!当時を思い出そうとしてもほとんど記憶がないほど、まさに多忙でした。そしてたった一人のお子に未だアプアプしている不器用な私にとっては、二人、三人と育てていらっしゃる親御さん達は、一体どうやって自分の時間を捻出しているのでしょうか!?もはや神の領域に達していると思います。「大げさだな〜。」と思う方には、できることなら当時の私のテンパり具合を見せたいなぁと思います。

リトルFumi
非常に不器用な人間です。
●実はちゃんともらっていた!「リアルな経験者の声」
まだ親になる前は、悩む時間も含めて、自分の時間を全て制作に費やす事ができていました。美大時代に大きなモヤモヤに直面し、卒業後も色々悩んだ末に、一枚絵を描こうと思い立ってから数年・・・自分のヘッタクソさが情けなくて、泣きながら筆を握る日々を過ごしつつも、私よりもずっと早くから油絵を学んでいた実の妹の惜しみないアドバイスや、地元の絵描きの師匠との出会いのおかげで、それまでできなかった表現が少しずつできるようになり、自分で成長を実感したり、描いた枚数だけコンペに入選・入賞したり、地元の企業団体から制作のための援助金をいただいたりと、運が運を呼び、ありがたい事にちょっとだけ良い流れに乗っていました。そんな私に、周囲の育児経験者達はこう言いました。「出産したら、しばらくは描けなくなるよ。」

ヒョー!いじわるなこと言う!

これ、アッポちん!
しかし私は「いやいや、そんなの言い訳で、本気でやりたいなら時間を作れば良い。そんなの自分の情熱次第!」なんて思っていました。

自分次第でしょ!産褥期(産後一ヶ月)を過ぎたら、また制作再開よ!

ところがどっこい!
赤子の信じられない可愛さに幸せを噛み締めながらも、壮絶な産褥期に度肝を抜かれました。出産の疲れなのか?一時間の睡眠が五分程に感じる。回復が遅く、下半身の激痛で脂汗をかきながらほふく全身で家の中を進み、授乳が下手くそすぎて手が腱鞘炎になり、最終的には首のギックリになり、アワアワ・・・。毎日があっという間に過ぎていき、産前に週一で開いていた絵画教室を再開できたのも、産後五ヶ月程が経ってからでした。

ほら、もう予定がずれ込んできたね!

思ってたんと違う。
娘が寝ている隙を見て制作をしようと試みました。・・・が、にっちもさっちも行かない。元々、何をするにも時間のかかる不器用者だった私。細切れに絵を描くのが難しかったのです。育児の勉強をする必要もあったし、おまけに誰に似たのかなかなか睡眠の安定しないお子の夜泣き対応で、ひどい寝不足に。できてせいぜい、ちょっとしたエッセイイラストを描くくらい。絵画教室の時間に生徒さんを指導しながらなんとなく筆を入れるくらい。それが精一杯でした。
●この辺から、男うらめしやオバケと化す

ぐっすり寝られてうらやましい。行きたいと思った時にトイレに行けてうらやましい。座ってご飯食べられてうらやましい。自分の時間があってうらやましい。仕事に専念できてうらやましい。男うらやましい。

あわわわ、完全に目がイッテる!もはや絵どころじゃなくなってるし、限界やん。とりあえずお子の後頭部のやんごとなき匂い嗅いで!一瞬悟り開けるから!
●ここで、アトリエがなくなるという事件が発生。

容赦ないやん。
この頃、住んでいた家には土間がありました。父の生まれ育った家です。私はその土間を、アトリエとして使っていました。ところが、夫のたっての希望で、その土間を譲ることに。もちろん強制ではありません。ちゃんと相談を受けての事です。
アトリエに使っていた土間を夫に奪わ・・・譲った私は、二階の一室を使用する事になりました。ところが・・・照明が暗くて微細な色の変化が見えない。絵の具で汚しそうだから、シートを敷きたいけどその気力がない・・・。

疲れ切ってて、色々対処する余力が残ってなかったよね。
●そして肝心の夫は、ほぼほぼ土間を使っていない!

なんでや!せめて地面が擦り切れるくらい入り浸ってろよ!
私はだんだんイライラが隠せなくなり、般若の形相に。「なぜこんなことに!」悔しくて悔しくて、たまりませんでした。その後、夫も何かヤバイ空気を感じたのか、アトリエに使える場所を用意してくれたのでした。

めでたしめでたし・・・じゃないんだよね〜。
●新しいアトリエまで、車で30分の距離。

自宅アトリエなら移動時間だけで60分も描けるやん。てか60分もあったら睡眠に充てられるやん。今の私にとって60分は地獄のロスぞ。
ほぼほぼ使っていないのにも関わらず、なぜか土間は死守していた夫。家族って、本当にヘンテコでおもしろい関係ですね。とにかく寝不足がひどく、往復60分の移動中に何度もカクンてなってました。

よく事故しなかったね。
コンペ直前は母を頼り、娘を託して制作したりも何度かありました。しかし完全母乳で育てていたため、限られた時間も搾乳に費やされ、ひどい寝不足のために搾乳しながら地べたで寝てしまう・・・そんな中でコンペの〆切を迎えてしまいました。どう考えても未完成でしたが、強制的に完成とするしかありませんでした。
私はこの未完成の作品を、とてもじゃないけど出品できないと感じました。けれども、そんな悔しい気持ちとは関係なく、周囲の支えに対して何かしらの誠意を見せなければと思う気持ちから、予定通りコンペに出品したのでした。もちろん結果なんかありません。分かっていました。
●はい、気が遠くなるような長い前置きが終わりました。
ここまでえらいこっちゃな状況を長々とご説明しました。頑張って端折ったつもりですが、このボリュームになってしまいました。

ね〜。
ここでもう一度念押しさせていただきますが、このサイトは育児に関する発信のためのものではありません。ただただ絵を、解説したいだけなんです。次からがやっと本題です!
●未完成の完成品
さて、このどうしようもない未完成品、悔しい思いと一緒にアトリエの奥に押し込んでいたのですが・・・最近になって、面白い事に気づいたのです。それは、ある観点では、この作品は大いなる完成品だと言えるということ。その観点というのが、パニックに陥っていたあの時、あの瞬間の感情や状況を、一人の人間として表現できたかどうかという点なのです。
●パニックに陥った人間が、絵を描くとどうなるか?興味深いと思いませんか?

そんで、こうなりました。

わ〜ぐちゃぐちゃだね〜!

題名 ひとひらの夜
作者 Fumi Onaka
制作年 2019年
サイズ 530×652mm
画材 キャンバス、アクリル絵の具
ここは夜の海。風が吹き荒れ、海面は荒れ、紙風船は散り散りに舞っています。
画面右側には大きな百合の花が咲いています。百合の真横、画面左下にある大きな円盤のようなものは、ジンガサという貝の仲間です。円盤の表面には、フジツボという貝の仲間が付着しています。何だか小惑星のようにも見えます。円盤の上には、虫のサナギのようなものが浮いています。実はこれ、へその緒です。へその緒は、母子にとってのいわば命綱のようなもの。大きな百合は、荒れた海にピンと張り詰めて立ち、微動だにせず、この命綱を見失わないようにしています。目を離した隙に、風や波にさらわれる、なんて事のないように。
画面左中央には赤い物体が見えます。電波塔のような、不思議な構造物です。これは灯浮標と言って、船を港へ誘導するためのものです。「社会」という名の船は、百合の置かれた状況とは関係なく運航されています。ただ、百合の守る場所、つまりへその緒の横たわる円盤に、船が乗り上げてしまわないように、航路を示しています。かろうじて、そういう配慮がなされているわけです。
向こう側にはリゾートホテルのネオンが。そこには贅沢で自由な時間が流れているでしょう。百合にとっては、別世界です。
散り散りに舞う紙風船には、何が詰まっているでしょうか?
実は、吹き込んだのは空気だけではありません。感情・思い入れや思考です。自分のものもあれば、誰かのものもあります。まだ何も入っていないものもあります。まだ意識化・可視化されていないもの、できているけれどアウトプットされていない物がまだあるという事を示しています。
百合の花びらはだらりとしています。熟しきっていて、触れなば落ちん、といった風に。親から子へ、命を引き継ぐ、真剣勝負の瞬間です。
百合の足元には、たくさんの支柱が伸びています。一見、支えられているようです。支柱とはそういうものです。ところが見方を変えれば、身動きが取れなくなっているようでもあります。支柱をさしたのは誰でしょうか?私は、もしかすると百合自身かもしれない、そんな気もしています。何がそうさせたのでしょうか?それは、命という概念の本能かもしれない、そんな気がしています。
絵的にはまとまりがなく、最終的には色も濁って大変ぐちゃぐちゃです。でもその散らかり具合が、その頃の自分の状況を忠実に伝えてくれているんですよね。
●この作品の後に決めた事
この頃、自分を支えてくれていた人達は、いつもエールをくれました。「工夫すれば時間は作れる。」「今が勝負。」「どう?描けた?」
けれども、残念ながら私はそのエールにさえ追い詰められていました。
もう、動けない。睡魔に朦朧とした頭で、搾乳をし、地べたで目を覚ましては思いました。「一体私は何をやってるんだろう。」自分は、何を守るべきだろう。
そしてよくよく考えたのです。私は一旦立ち止まる決心をしました。
私が今守るべきは、まず自分。夫と話し合おう。睡眠を確保しよう。そうして、我が子を守ろう。絵はまた落ち着いたら、続きをやろう。

ちゃんちゃん!

なんだかんだで制作を継続できています!
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